2010年 06月 29日 ( 1 )
NHK視点論点
この原稿はNHKの視点論点に出演した時のものです。5月26日に放映されました。
文中、鳩山政権に問い正したいとありますが、その後、管総理大臣に交代しましたが、そのままにしました。


「日本の文化政策を憂う」
ミヅマアートギャラリー ディレクター 三潴末雄

政治上の問題や経済改革は短期間に変革が可能です。
しかし文化は人間が長期間に紡いできた結晶なので簡単には創れません。
また、変わらない世界だと思います。文化は国家の貴重な不滅の財産なのです。
日本の文化に対する最近の政治姿勢に危惧を覚えます。
国庫の無駄使い、撲滅の為の仕分け活動を見ていると、文化支援は冷遇されています。
文化力こそ停滞した日本を甦らせる、最善で最高の、道であると信じるが故に、日本の文化予算の緊縮は問題です。
文化を疎かに扱った国の行く末は、独裁国家や共産主義国家の惨状を見るまでも無く、歴史が証明しています。
また文化藝術に対して関心やレベルの低い国家は、諸外国から見ても魅力が感じられません。
文化の発信力の旺盛な国は、国力と存在感が高まり、経済活動もそれに比例して活発になるのです。

ところで、《7倍と5倍》この数字の意味する内容がお判りになりますか? 
これはお隣の韓国との比較数字です。
日本の経済力は韓国の7倍近くあります。
しかしながら国民1人当りの文化予算は韓国の方が5倍も高いのです。
経済力は人口が日本の方が3倍も多いので、理解できるのですが、国の文化予算が5分の1とは、
なんとも情けない数字だとは思いませんか!

韓国の文化活動に対する並々ならぬ国家的支援は手厚いもので、我々のようなコマーシャルギャラリーに対する支援もあるのです。
たとえば、海外で開催される個人の展覧会やアートフエアの作品の輸送費など、幅広いサポートが受けられるのです。
日ごろから我々現代美術ギャラリーは、文化の輸出を担っていると自負しておりますが、韓国では
こうした活動にも理解を示し、支援を続けています。
圧倒的に文化輸入大国の日本の中で、文化の輸出をしている貴重な存在である現代アートギャラリーの活動に対して、
もっと理解が得られないものでしょうか。

さて韓国での現代アートに対する支援の話にもどります。
本年4月に韓国でアジアアートアワード(AAA)と呼ばれる、40歳以下のアジアの現代アーティストを顕彰する
制度が発足しました。
日本、韓国、中国から各10名づつ、東南アジアから13名の若くて勢いのある作家を、美術関係者に推薦させ、
選考委員が、その中から6名を選んで、ソウルのSOMA美術舘で展覧会を開催。
最優秀作家にAAA賞を与えるのです。
はえある第1回の賞を獲得したのは、タイのアピチャポンでした。
彼の制作したビデオ作品が高い評価を受けたのです。
最終選考には、日本の若手アーティストグループのCHIM↑POMも残ったのですが、残念ながら受賞を逃しました。
21世紀に入り、経済発展が著しいアジアをターゲットとした、この制度の創立の歴史的意義は大変深いものがあります。
英国にはターナー賞、米国にはヒューゴ・ボス賞など欧米には若い作家を顕彰する賞がたくさんあります。
アジアでもこうした賞を創設したいと、私も発案者の韓国のディレクターに協力していましたが、韓国で先に実現されたことは、
喜ばしくもあり、少し残念な気持ちです。
何故日本でこのような、アジアを俯瞰した賞がうまれないのでしょうか?
アジアで最初の美術ビエンナーレを1952年に開催した日本、アジアで真っ先に近代化を遂げ、
文化的にも経済的にも先頭を走っていたはずだった日本。
残念ながら、この繁栄の半世紀に、経済優先、商人根性剥き出しの、文化にお金を使わない国家に日本は
成り下がっていないでしょうか?
韓国は日本の5倍も文化予算を持ち、若い才能を大切に育てています。
若い才能を大切にしない国が滅びて行くのは歴史が証明しています。
010年は日本が韓国を併合した不幸な歴史から、100年目にあたります。
AAAという文化的に極めて意義ある賞が、日本にさきんじて韓国で創立されたのは皮肉な歴史的出来事だと思います。
韓国だけではありません。
21世紀に入り、経済的発展が著しいアジア諸国が、文化政策に国の威信をかけて取り組み始めています。
聞によると、香港ではアジアにおける文化的なハブを目指し、一大文化拠点建設に向けて、
40ヘクタールに及ぶ広大な敷地を確保したとの記事がありました。
香港では、昨年の10月にアジア文化協力フォーラムを開催。
その会議で日本の国立メディア藝術総合センター計画の消滅が話題になりました。
残念な話です。
このようにアジア各地はそれぞれ前向きな文化政策が推進されています。
ところで 民主党の新政権下で、行政刷新会議・事業仕分け人たちは、藝術には国の関与は不要と言い放ち、
文化予算を削減しました。
鳩山政権に問い正したい。
あなた方は文化、藝術をどのように考えているのですか?
かつて作家の坂口安吾は戦後の大混乱期に堕落論で次の様に書いています。
「必要ならば法隆寺を取り壊して停車場を作るがいい。我が民族の光輝ある文化や伝統はその事によって
決して滅びはしないのである。」
まさか安吾が指摘した強靭な日本精神に甘えて、コンクリート行政の復活を目論んではいませんよね?
公共工事依存も危険だが、国全体が効率主義に陥っては、もっと危険です。
藝術家は合理主義とは無縁のところで勝手な発想をしていますが、こうした人々の存在こそ、貴重で、
社会の健全なバランスを保ち、一方通行的発想に、警鐘を鳴らしてくれるのです。
産業経済優先型の市場原理主義には限界があることを、政治家は学ぶべきです。

前政権の最高の置き土産と思っていた、国立メディア藝術総合センターの建設計画が中止になりました。
国立漫画喫茶と揶揄され、悪しきハコモノ行政のシンボルのように批判されました。
なんとも低次元な政治家の理解度には呆れるばかりです。
日本の漫画やアニメがどれだけ世界中の人々に愛され、注目されているか、政治家はどの位知っているのでしょうか?
昨年、クールジャパン(かっこいい日本)にあこがれたフランスの2人の女子中学生が、日本に行きたくて
パスポートも持たずに家出して、スイス国境近くで補導された事件がありました。
こうしたエピソードに象徴されるように、諸外国の若者の間では、日本への憧れや注目がますます高まっています。
中国には、バリンホウと呼ばれる80年代生まれの、消費意欲旺盛な世代が2億人もいるそうです。
これらの若者たちも日本のデザイン、ファッションに憧れ、アニメや漫画にも興味を持っています。
東京は世界中の人々を集める国際的な美術館が無い、珍しいインタナショナルな都市です。
NYのMOMA近代美術館、パリのポンピドウセンター、ロンドンのテートモダン、と世界には現代芸術を網羅した、
国際的な美術舘があり、毎年、大勢の観光客を集めています。
東京にも現代日本の魅力を集めた総合芸術美術舘を作り、日本文化の継承と、世界に向けた芸術の
発信基地を作って欲しいと思います。
今こそ日本には戦略的な文化政策の構築が必要だと思います。
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by mizuma-art | 2010-06-29 12:48 | その他